リングフィットアドベンチャーの特許をちょっとだけ調べた

スプラの特許のエントリが人気だったので早々に次のネタを提供した方が良いのかなと思い、スマブラアイドルマスターの特許がないかを調べてみたけどスマブラがどんなゲームかよくわかっていないせいでよくわからず、アイマスはいろいろあったのだけどまだ自分のなかで咀嚼するのに少し時間がかかりそうな気がした。

検索しているとわかりやすいのがリングフィットアドベンチャーで、いっぱい出てきたので紹介…しようと思ったんだがちょっと全部をちゃんと見て紹介するのはすぐには不可能で、パラパラっと見て面白そうだと思った奴だけにしようと思ったんだがそれでも説明しきれないので2つだけ紹介する。残りで興味深いものは後日気が向いたら紹介することにしたい。

 

リングフィットっぽい特許は雑な検索でも審査を経て登録されているものだけでも下記の14件が見つかる。日付は出願日であり、このうち特許6821073だけがリングフィットアドベンチャーの発売後になっているのだがこれは特許6688424の分割だからなのだ。

  1. 特許6821073    2020/04/03    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  2. 特許6770145    2019/07/05    情報処理プログラム、情報処理システム、情報処理装置、および、情報処理方法
  3. 特許6768130    2019/08/30    情報処理システム、情報処理プログラム、および、情報処理方法
  4. 特許6731531    2019/08/30    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理方法、および、情報処理装置
  5. 特許6691258    2019/08/28    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  6. 特許6688425    2019/08/30    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  7. 特許6688424    2019/08/30    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  8. 特許6688423    2019/08/20    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  9. 特許6681505    2019/07/22    情報処理システム、情報処理装置、情報処理プログラム、および、情報処理方法
  10. 特許6681504    2019/07/16    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  11. 特許6670030    2019/08/30    周辺装置、ゲームコントローラ、情報処理システム、および、情報処理方法
  12. 特許6670028    2019/07/18    情報処理システム、情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
  13. 特許6666505    2019/06/20    入力装置
  14. 特許6666504    2019/06/20    装置、システム、ゲームシステム、および、装置セット

 

 

 

なにがすごいかというとこれらの特許、代表図面が全部

特許6670030の代表図面

だったり、

特許6666505の代表図面



だったりしている。リングフィットアドベンチャーに関連していることがわかりインパクトがある。が、具体的にどのような特許なのかこれからはわからない (特許の代表図面に意味がないことは非常によくあることなので、別にこれは困ったことになっているわけではない)。

 

比較的番号が若い2つを紹介する。

 


特許6666505 入力装置

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6666505/B5D1F82F1C7D80512A7AE310BA029BED94457FA9201768B480223CC843C5D1D3/15/ja

これはリングコンそのものの特許である。すごいのは請求項1である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
  第1端部および第2端部を有し、少なくとも一部が弾性変形可能な弾性部と、
  自身と前記弾性部とによって環が形成されるように当該弾性部の両端部を保持する台座部と、
  前記台座部に設けられ、ユーザの入力に応じて前記弾性部が変形したことによって当該台座部に生じた歪みを検出する歪みゲージとを備える、入力装置。

なんと下記3つを満たしている入力装置というだけでこの特許に引っかかってしまう。これは強そうだ。

(1) 弾性変形する

(2) 輪っかになっている

(3) 輪っかにするための両端部分をつないでいる台座部に歪みゲージが入っている

上記は僕が適当に描いた絵である。これだけの要素でもう引っかかってしまうのである。しかしちょっと特許に詳しい人ならこの請求項1に対して下記のようなことを思いつくのではないだろうか。

「台座が弾性部の両端を保持している、ということは弾性部1つで環状になっているということ。この請求項1の範囲に入るものはその構造に限定されている。つまり弾性部を左右に2つつくり、前後に台座を配置すればこの請求項1には引っかからないぞ!」

つまり、こういうやつを作ればいいのではないか、ということだ。

台座部が弾性部の両端を保持しているわけではない。2つの弾性部のそれぞれ片端を保持しているだけだからな!

 

しかし請求項を読み進めていくと最後にこういうのが出てくるのだ。

【請求項22】
  歪みゲージと、
  前記歪みゲージが取り付けられた台座部と、
  ユーザの一方の手で把持される第1弾性部と、
  前記第1弾性部とは別体であり、ユーザの他方の手で把持される第2弾性部とを備え、
  前記台座部は、
    第1部分と、当該第1部分に対向して設けられる第2部分とを有し、
    前記第1弾性部の一端および前記第2弾性部の一端が前記第1部分と前記第2部分との間にそれぞれ挟まれた状態で当該第1弾性部および当該第2弾性部を保持し、
  前記台座部は、一方側および他方側の端部にそれぞれ開口を有する筒状の形状であり、
  前記弾性部は、前記第1弾性部の前記端部が前記一方側の開口に挿入され、前記第2弾性部の前記端部が前記他方側の開口に挿入された状態で前記台座部に保持される、入力装置。

 

これは、さっき請求項1から逃れようとして考えたやつ、そのものではないか…

 

それどころかこんなやつもこの請求項22に引っかかってしまう。

まあそりゃそうだよな。でも逆にこういうのがすでに先行例として存在してればこの請求項はつぶせるので、僕がもし仕事で「どうしてもリングフィットみたいなやつを作れ」って言われたらそういう先行例がないかを血眼になって探すだろう。

 


特許6670030    周辺装置、ゲームコントローラ、情報処理システム、および、情報処理方法

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6670030/3716ADEE307ECCEB72D33AD116E485EEAF70D2C00ADF4E4285C0FC5932B75979/15/ja

個人的にリングフィットアドベンチャーについてよくわかってなかったなと思わされたのがこの特許だった。

 

【特許請求の範囲】
【請求項1】
  ゲーム装置を操作可能なゲームコントローラと通信可能であり、ユーザ入力を検知するセンサと、処理部と、送信部とを備える周辺装置であって、
  前記周辺装置は、前記ゲームコントローラとの通信が確立されているときに、第1モードと、第2モードとを含む複数のモードのうちいずれかで動作可能であり、
  前記第1モードにおいて、
    前記処理部は、前記センサが検知したユーザ入力に応じた周辺装置データに基づいて、前記ゲームコントローラに所定の動作を実行させるコマンドを生成し、
    前記送信部は当該コマンドを前記ゲームコントローラへ送信し、
  前記第2モードにおいて、
    前記送信部は、前記周辺装置データを前記ゲームコントローラへ送信する、周辺装置。

うん。ぜんぜんわからん。

ゲームコントローラと通信可能であり、ユーザ入力を検知するセンサと、処理部と、送信部とを備える周辺装置」… これはわかる。リングコンの、ジョイコンをはめる部分のことだ。先入観があると送信部って無線っぽく思っちゃうけど、これはリングコンの歪みゲージのデータを装着されたジョイコンに送る部分のことだ。

 

そしてそれが2つのモードで動作する。

 

「前記第1モードにおいて、
    前記処理部は、前記センサが検知したユーザ入力に応じた周辺装置データに基づいて、前記ゲームコントローラに所定の動作を実行させるコマンドを生成し、
    前記送信部は当該コマンドを前記ゲームコントローラへ送信し、

 前記第2モードにおいて、
    前記送信部は、前記周辺装置データを前記ゲームコントローラへ送信する」

これは意訳するとこうだ

「前記第1モードでは、リングコンは、歪みゲージによって得られたリングの押し込み・引っ張り度合いを元に、接続されたジョイコンになにかを動作させるコマンドを生成してジョイコンに送る。第2モードではリングコンは単に歪みゲージの情報をジョイコンに送るだけ」

 

 

しかしやっぱりよくわからない。だが請求項3を見るとちょっとこの謎が解ける。

【請求項3】
  前記第1モードにおいては、前記ゲームコントローラおよび/または前記周辺装置に対するユーザ入力に基づく処理が、前記ゲーム装置によることなく前記周辺装置および前記ゲームコントローラによって実行され、
  前記第2モードにおいては、前記周辺装置データに基づくデータが前記ゲームコントローラから前記ゲーム装置へ送信され、送信されてきたデータに基づく処理が当該ゲーム装置によって実行される、請求項1または請求項2に記載の周辺装置。

つまり、基本的にはジョイコンが合体されたリングコンは第2モードで動作しているということだ。リングコンの押し込まれ度合いはSwitch本体に送られて、Switch本体がゲームの処理をして、その結果が画面などに表示される。

しかし第1モードというのが存在する。これはどういうものかというとリングコンが押し込まれたら、勝手にジョイコンがそれに合わせて動作をするようなモードのことだ。具体的には振動である。リングコンが押し込まれたらジョイコンが振動してフィードバックを伝えるということが、Switch本体なしにできるモードを付ける、というのがこの特許なのだ。

 

「発明の詳細な説明」では、請求項で「前記第1モード」と書かれていたモードが「独立動作モード」という名前で説明されている。

[2-2.独立動作モードにおける処理の流れ]
          :
独立動作モードにおいては、本体動作モードとは異なり、リング型拡張装置5が親となり、右コントローラ4が子となって通信が行われる。すなわち、独立動作モードにおいては、リング型拡張装置5が右コントローラ4に対してデータの送信を要求し、この要求に応じて右コントローラ4がデータをリング型拡張装置5へ送信する流れで通信が行われる。

  具体的には、リング型拡張装置5は、送信要求信号を右コントローラ4へ送信する。

         :

  また、リング型拡張装置5は、上記送信タイミングにおいて、送信要求信号に加えて、必要に応じて、右コントローラ4に所定の動作を実行させるコマンドを右コントローラ4へ送信する。上記コマンドとは、例えば、右コントローラ4に対して音および振動を出力させる指示を示す出力コマンド、および/あるいは、通知用LED67を発光させる指示を示す発光コマンド等である。

 

これで具体的には何をするかというと… なんと、Switch本体が居ないときでもリングコンと右ジョイコンだけでフィットネスができるようになるというのだ。

 

【0124】
  以上のように、本実施形態においては、右コントローラ4およびリング型拡張装置5は、本体装置2が処理を実行する本体動作モードだけでなく、本体装置2とは独立して処理を実行する独立動作モードで動作することが可能である。したがって、ユーザは、本体装置2においてアプリケーションが実行されていない期間において、独立動作モードで動作する右コントローラ4およびリング型拡張装置5を用いることができる。例えば、ユーザは、本体装置2においてアプリケーションが実行されていない期間においても、リング型拡張装置5を用いたフィットネス動作を行うことができる。
【0125】
  また、本実施形態においては、独立動作モード中に行われたフィットネス動作の記録を示すデータが保存され、その後に本体装置2において、リング型拡張装置5を用いるアプリケーションが実行された場合に、本体装置2は当該データに基づいてゲーム処理を実行する。そのため、本実施形態においては、アプリケーションが実行されていない期間にユーザが行ったフィットネス動作の結果をアプリケーションに反映させることができる

 

つまりこれは「ながらモード」を実現するための仕組みだった。ながらモードとは下記の任天堂のページに紹介されている。

自分に合った、トレーニング | リングフィット アドベンチャー | Nintendo Switch | 任天堂

任天堂ページの「ながらモード」の説明

 

僕はこの特許を見るまでこんなモードがリングフィットアドベンチャーにあるということを知らなくて、さらに、この特許を読んでいる最中も、「ほほう。。こんな機能がこのハードにはあるのか。使われているんだろうか??」と思ったりしていた。

「リングフィット Switch スリープ」などのキーワードで調べてみると普通に「ながらモード」で使われていることがわかった。

 

この、Switchが寝ている間にリングが押し引きされた回数を覚えているのはリングコンなのか右コントローラなのかどっちなんだろうか? それはこの特許の明細書には記載がないようだった。

しかし上記で引用した【0125】の段落以降で、今回のリングコンと右ジョイコンの間の通信や処理の分担のやりかたは、右ジョイコンの限られたファームウェアのサイズや、将来の可能性に対してものすごく配慮された方式なんだということが延々と語られている。下記にすこし引用するがこれは読みごたえがあると思う。

【0128】
  ここで、右コントローラ4が複数種類の周辺装置に装着可能であり、独立動作モードにおいては、右コントローラ4および周辺装置は、当該周辺装置に応じて異なる動作を行う場合を考える。この場合、周辺装置毎に異なる処理(例えば、周辺装置に対するユーザ入力に応じて、周辺装置毎に異なる出力を右コントローラ4から行う処理)を右コントローラ4が実行するとすれば、それぞれの処理のためのプログラムおよびデータを右コントローラ4が記憶することになるので、右コントローラ4におけるデータ量が大きくなってしまい、右コントローラ4の記憶領域を圧迫するおそれがある。これに対して、本実施形態においては、独立動作モードにおける処理が周辺装置毎に異なる場合であっても、右コントローラ4における処理を共通化することができる。例えば、周辺装置に対するユーザ入力に応じて右コントローラ4に出力を行わせる処理については、出力を行わせるコマンドを周辺装置側で生成し、コマンドに従った動作を右コントローラ4に実行させることで、周辺装置の種類によらず、右コントローラ4における処理は共通になる。これによれば、右コントローラ4を汎用的に利用することができ、周辺装置に対応させやすくなる。また、独立動作モードにおける右コントローラ4の処理の汎用性を向上することによって、右コントローラ4における処理のために記憶されるデータの量を低減することができる。

 

今回紹介した2件はかなりハードウェア的な内容だったが、任天堂ナムコのようなゲーム会社が新しい入力/出力ハードウェアを手にしたときには、そのハードでできることをめちゃくちゃいっぱい試して、ゲームのUIにどう活用しているかについてたくさんの特許を出願してくる。冒頭で挙げた14件のうち11件の「情報処理プログラム」が発明の名称に入っている特許たちはきっとそういう類のものだ。次回はそれらのうち一部を紹介できればいいな…