ゼルダTotKで「普通」の挙動を実現するための特許がいろいろ出願されている件

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(ゼルダTotK)を購入して遊んでいるのだが、ヌルくだらだら遊んでいるために一向に終わる気配がない。
(京都の地名の元ネタを探したりしているからという説もある。「カスケイオマの根」は烏丸御池なのだろうとか)

そうこうするうちに時間が経ち、任天堂の特許を検索してみるとどう見てもゼルダTotKに関するものが大量に出願されていた。その数31件。ヤバい。

そんなわけでざっと概要などを斜め読みした結果をまとめたものが下記の表である。左端の列の連番で2が抜けているのは、ここにあった特開2023-104988はゼルダに関係のなさそうなものだったからである。

今年7月10日から、8月4日までに公開となった任天堂の特許。ほぼTotKのものだった

スクラビルドの特許が3件。ウルトラハンドとそれで組み立てた道具の挙動などに関するものが3〜6件、今回あまり目立ってないが自分と一緒に戦ってくれたり特殊能力を提供してくれるNPCに関するものが7〜8件ある。

ウルトラハンド関連の23件と、純粋にUIとして良いなと思うもの2件を簡単に紹介する。

 

特開2023-103273(P2023-103273A) … モノに乗って移動するときの計算の特許

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-103273/6B1E7E15670E730C5DEAF877AF466F706D91B47CAD6DC015008FDC07DA623400/11/ja


【公開日】令和5年7月26日(2023.7.26)
【発明の名称】ゲームプログラム、情報処理システム、情報処理装置、および情報処理方法
【出願番号】特願2023-70334(P2023-70334)
【出願日】令和5年4月21日(2023.4.21)

 

【要約】
【課題】プレイヤキャラクタを様々なオブジェクトに乗せて移動させるのに適したゲームプログラムを提供する。
【解決手段】本実施形態のゲームでは、仮想空間に配置された移動可能な動的オブジェクトを物理演算に基づいて移動制御させ、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを移動制御させ、プレイヤキャラクタの下方向においてプレイヤキャラクタと動的オブジェクトとが接触している場合に、当該下方向に接触している動的オブジェクトの移動をプレイヤキャラクタの移動に加える

 


これは代表図面の図9にあるように車のような動的オブジェクトが動いたとき、上に乗っている主人公リンクは何も操作しなくてもその下のオブジェクトと同じように動く、という特許である。リンクの下の接触判定をチェックして、その下のオブジェクトが動いてたらその速度をリンクの速度にする、というもの。


「いや、それ、当たり前やん。重力があるのにそれができてないゲームなんて源平討魔伝くらいだろ? どこが特許なの?」


まあこんな風に思うわけだけど、任天堂さんの主張は違った。
今回リンクも動的オブジェクトも物理演算で動作しているので、普通に考えれば動的オブジェクトの上に乗っているリンクは動的オブジェクトとの物理演算(たとえば摩擦力など)によって動的オブジェクトと一緒に動くよう実装するのが素直な作りかた。でもそれだとゲーム的にいい感じじゃないので、リンクと動的オブジェクトとの間は物理演算は行わず、リンクの下方向に接触したオブジェクトと同じ動きをリンクにもさせるようにしてしまったらいい感じになった、ということらしい。

 

請求項1は下記のようになっている。

【請求項1】
  情報処理装置のコンピュータに、
    前記仮想空間内に配置された移動可能な動的オブジェクトを物理演算に基づいて移動制御させ、
    操作入力に基づいて、仮想空間内においてプレイヤキャラクタを移動制御させ、
    前記プレイヤキャラクタの下方向に対する接触判定を行わせ、
    前記プレイヤキャラクタが前記下方向において前記動的オブジェクトと接触している場合に、当該下方向に接触している前記動的オブジェクトの移動を前記プレイヤキャラクタの移動に加えさせる、
  ゲームプログラム。

こんなの、普通に先行例がありそうな気がするんだけど、でも具体的にこれだぞと突きつけるのは難しい。審査請求されたときに審査官がどのような反応をするのか、経過が気になる特許と言えよう。

 

特開2023-103274(P2023-103274A) … 自分が上に乗っているものはウルトラハンドで掴んでも動かせないという特許

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-103274/F63BED3D38106634E5C0FFF731694ECD21E4C076D346A9ECA12C0ACF0A40DFBA/11/ja

 

【公開日】令和5年7月26日(2023.7.26)
【発明の名称】ゲームプログラム、情報処理システム、情報処理装置、および情報処理方法
【出願番号】特願2023-70335(P2023-70335)
【出願日】令和5年4月21日(2023.4.21)

 

 

ゼルダTotKでは、ウルトラハンドという特殊能力で、見える位置にある移動可能なオブジェクトを自由に動かすことができるんだけど、自分が乗ってるオブジェクトは移動できないようになっている。これが特許だというのが、この出願である。

「いやそれ当たり前やん」

まあその通りなんだけど、ウルトラハンドではオブジェクト同士をくっつけて一体の動的オブジェクトとして扱うことができる。その結果自分が乗っているオブジェクトと一体になったオブジェクトを操作対象とすることができてしまうんだけど、そのような場合でも自分が乗っているオブジェクトに結合している場合には移動させないようにするというところがポイントのようなのである。

こういうのも先行例がありそうで、でも「具体的に何かあったのか?」って探すとなかなか見つからないような気がする。まあこれを回避しようとすればそもそも移動対象にならないオブジェクトは操作対象にできないようなUIにすればいいのでそこまでイヤな感じの特許ではないかもという気がする。

 

特開2023-102296(P2023-102296A) … ロケットや扇風機の推進力を制御する特許

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-102296/3FEB6F34E8D391EC2441AF27E5D659D4AD5899886EACE6304E6C64DE8B5A3D1A/11/ja

【公開日】令和5年7月24日(2023.7.24)
【発明の名称】ゲームプログラム、情報処理システム、情報処理装置、および情報処理方法
【出願番号】特願2023-73338(P2023-73338)
【出願日】令和5年4月27日(2023.4.27)

 

【要約】
【課題】オブジェクトに推進力を加えるとともに許容される範囲を超えた速度に到達し難いように制御することが可能なゲームプログラムを提供する。
【解決手段】本実施形態のゲームでは、仮想空間に配置された移動可能な動的オブジェクトのうちの推進オブジェクトについて、推進力を発生させ、物理演算に基づいて推進オブジェクトを仮想空間内で移動させる。推進オブジェクトの移動速度の、推進力の方向に沿った成分の大きさに応じて推進力を減衰させ、当該推進力の方向に沿った成分が所定の基準値を超える場合、推進力が無くなるように制御する。

この概要と、請求項1 (解決手段と同じようなことが書かれている)だけを見ると、この特許は、
「オブジェクトに最高速度が設定されていて、その最高速度を超えないように制御する」
というだけの内容に見えてしまう。またまた
「いやそれ当たり前やん」
と言いたくなってしまうのであるが、実際にはもっと細かいことが書かれている。その説明に使われているのが下記の図10である

P2023-102296の図10

この図10のように、1つの組立品オブジェクトに稼動部品(31bの丸い円盤が回転するらしい)があり、その上に推進力を持つ部品(31abの扇風機)が設置されているなどのときには、部品毎に速度が変わってくる。その上でその部品毎に推進方向の速度ベクトルの大きさに応じて推進力の減衰量を決めるということだ。普通の空気抵抗や走行抵抗ではダメな理由はよくわからないが、とにかくゼルダTotKの道具たちはこのような仕組みで動いているらしい。

 

特開2023-98721(P2023-98721A) … 3階層のマップに足跡を表示させる特許

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-098721/3447F2658F7D3904EC61F2D889B653CAA8F4E31A1B60F11A815E9C719D8D7F22/11/ja

【公開日】令和5年7月10日(2023.7.10)
【発明の名称】ゲームプログラム、ゲームシステム、ゲーム装置、およびゲーム処理方法
【出願番号】特願2023-14132(P2023-14132)
【出願日】令和5年2月1日(2023.2.1)

【要約】(中略)
ゲーム開始からの時系列に沿ったプレイヤキャラクタの位置の履歴を記憶させ、ユーザの第1の指示に応じて、仮想空間内における高さに応じて複数の階層を有するマップ画像における何れかの階層を表示させ、マップ画像の表示中において、ユーザの第2の指示に応じて、当該表示中の階層のマップ画像に履歴に基づいたプレイヤキャラクタの軌跡が重畳され、かつ、当該表示中の階層に対応する高さの履歴に基づいた部分の当該軌跡と当該表示中の階層以外に対応する高さの履歴に基づいた部分の当該軌跡とが異なる表示態様となる足跡表示を行わせる。

 

今回のゼルダでは地図に足跡を表示することができる。これはその足跡表示の工夫に関する特許である。

 

【ティアキン小ネタ】足跡モードで道のりを確認! 未探索の場所がひと目でわかる【ゼルダの伝説】 - GAME Watch

マップを開いてXボタンを押すと「足跡モード」が起動し、自分がどういった道のりを辿ったかを詳細に見ることができるので、今まで行ったことのない場所を見つけるのに役立つ。 

https://asset.watch.impress.co.jp/img/gmw/docs/1516/664/3_o.jpg

上の画像のように足跡が緑色の線で描画されているのだが、明るい緑色の線と薄暗い緑色の線があるのがわかる。ゼルダはマップが3階層にわかれており、これは地下のマップを表示している状態なので、地下で移動した軌跡は明るい緑色で、それ以外の階層で移動した軌跡は暗い緑色で表現される。

これも「いや、他の階層の移動はちょっと表示態様を変更するとか、普通にありそうじゃん」と思うような内容なのであるが、階層化されているマップを探索するゲームというのがそもそもあまりないし、それに移動の軌跡を表示させるものとなると、なかなか…これまでなかったかも? ってなってしまうのである。

 

特開2023-98720(P2023-98720A) … ワープのときのロード待ち時間のマップの演出

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-098720/8ECFEDAFDFB078FD2FB805A24CB80BBC213DAF27A5458BF4E5A29C3059A3B590/11/ja

【公開日】令和5年7月10日(2023.7.10)
【発明の名称】ゲームプログラム、ゲームシステム、ゲーム装置、およびゲーム処理方法
【出願番号】特願2023-14039(P2023-14039)
【出願日】令和5年2月1日(2023.2.1)

 

【要約】
【課題】少なくとも一部のゲーム処理を中断する待機期間における演出を豊富にすることができるゲームプログラム、ゲームシステム、ゲーム装置、およびゲーム処理方法を提供する。
【解決手段】現時点におけるプレイヤキャラクタの位置である移動元から離れた位置であって、ユーザの操作入力に基づいて指定された位置である移動先に、プレイヤキャラクタの位置を当該移動元から移す遠距離移動の指示が行われた場合に、少なくとも一部のゲーム処理を中断させ、中断されたゲーム処理を再開させるまでの待機期間を開始させ、待機期間が終了するまでの間、移動元の周辺のフィールド情報を表す第1のマップ画像を含む第1の表示を行わせ、第1の表示の後に、移動先の周辺のフィールド情報を表す第2のマップ画像を含む第2の表示を行わせ、待機期間の終了後、仮想空間内の移動先にプレイヤキャラクタを配置して、中断されたゲーム処理を再開させる。

 

ゼルダBotWやTotKは広大なマップの移動を容易にするために様々なワープポイントへのワープがわりとどこからでもできるようになっている。仮想空間上の全然違う場所に移動するので、当然ロード時間がかかってしまう。BotWのときはこの時画面左端の「ゼルダの伝説」というタイトルロゴが塗り潰されていくアニメーションを行っていたが、TotKはそれに加えて画面左側のマップが「移動元」→「移動先」に変化することで、いまワープしているぞということを表してユーザを退屈させないようにしている。それがこの特許の内容である。

特許の内容がとても僕の好みなのであるが、なんといっても選択図にかかれているこのフローチャートが面白いと思う。実際にこんなロジックが実装されてるわけでは全然ないだろうが、まあやっていることはわかる、という図になっている。特にS180とS183のところ。参考になる。

特許に記載のワープ時のマップ演出のフローチャート

 

最後に

一応公開されている任天堂ゼルダTotKの特許は舐めたつもりだが、出願されているだろうと思った内容のものが全てあったわけではなかった。具体的には下記のようなものがあるのではないかと期待していたのだが、なかった。

  • スクラビルドしたものを普通に戻すと素材は失われるが、店で金を払って分解してもらうと素材も戻ってくるやつ
  • トーレループトーレルーフ*1で上に飛び上がれるときと飛び上がれないときのマーカーの表示
  • トーレルーフの特許。トーレルーフ中の表現とか、トーレルーフ終了後に移動先を見て決定キャンセルを選べるところとか
  • ウルトラハンドでオブジェクトを回転させるときの操作
  • ウルトラハンドでくっつけるときの接着剤のようなものの表現
  • モドレコの特許
  • ブループリントの特許

が、まだTotKの発売前に出願された特許が全て公開されたわけではないので、今後公開されるものがまだまだあるのではないかと思う。また調べたいと思う。

(2023/8/10追記。トーレルーフとモドレコについては既に出願されていたので下記の追加記事を書いた

naoya2k.hatenablog.com)


それにしても、実際にゲームをやっていなければ意味や効果がよくわからないだろう特許が今回は大かった。特に下記はゲームをやっていたからすんなり理解できたが、ゲームを知らずに特許の書類だけを見ていたら理解するまでにかなりの時間を要してしまいそうだ。

  • 特開2023-098585 叩くと地面に固定されて光るアカリバナの特許
  • 特開2023-098591 ルージュの雷撃の特殊能力の特許

特許の請求範囲はもちろんゲームで実現されたものだけに留まらないので文面を読むのは重要だがゲームの知識がなければそもそも理解できない可能性がある。対象を知ることは重要である。

*1:2023-08-08修正しました。ずっとトーレループだと思ってた恥ずかしい…