夏に帰省したときに
「スティック型掃除機を持っているが15年前に7000円で買った安物なのでちょっと新しいのを買おうかどうか迷っている」
というような話をしたところ、
姉が
「掃除機のノズルのローラー部分に長い髪の毛が絡まりがちでとても不愉快」
というような話をしていた。
自分も職場の掃除のときに掃除機のノズルに絡まった糸屑や髪の毛の除去に苦労した記憶があるので納得であった。
さて、半月ほど経って掃除機を買おうと思って家電量販店に行ってみると、スティック型掃除機についている値札は3万円から8万円と、適当に選んで衝動買いができる雰囲気ではなくなっていた。
畢竟、スペックと価格の慎重な比較が必要になってしまう。そんなわけでいろんな掃除機を見ることになったわけだが、そんな中で「髪の毛がからまらない特許技術」というのが売り文句になっているパナソニックの掃除機があった。
MC-NS100Kというのがその機種で、下記の動画で説明されている。
www.youtube.com
特許を調べると下記のものが見つかった
- 特開2023-030877 / 特願2021-136260
- 掃除機用の吸込ノズル及び吸込ノズルを備えた掃除機
- パナソニックIPマネジメント株式会社
- 特許 有効
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-030877/11/ja
特開2023-030877の代表図面
巻き付いた髪の毛を吸い取る仕組みの解説としては
掻取ローラ141,142が床面上の塵埃を掻き取っているとき、図8に示すように、長い塵埃(たとえば、毛髪)が掻取ローラ141,142に巻き付くことがある。掻取ローラ141,142は、先端に向けて細くなるテーパ形状を有しているので、長い塵埃の巻き付き力の分力は、掻取ローラ141,142の先端側に向きやすい。したがって、掻取ローラ141,142に巻き付いた長い塵埃を掻取ローラ141,142の先端に向けて移動させることができる。
掻取ローラ141,142の先端に向けて移動した塵埃は、掻取ローラ141,142の傾斜面149間の空間152を通じて、これらの掻取ローラ141,142から離脱し得る。掻取ローラ141,142から離脱した塵埃は、吸引源102の吸引力により、空間152の後方の連通部130に吸い込まれる。
となっていた。
つまり下記のようなコンセプトである
- 回転ブラシを片持ち支持にして、支持してない側(自由端)をつくる
- からまった髪の毛等をその支持してない側に移動させるようなブラシ形状にする
- 自由端まで移動した髪の毛などは掃除機にゴミとして吸い込まれる
「なるほど、すごい。これはいいな」と一瞬思って「いやいやしかし他の会社の特許とかもあるのではないか」と思って調べたところ、髪の毛巻き付きに関する掃除機のノズルのものが最近数年だけでも下記のように特許出願されており、しかも相当な率で権利化もされていた。
| 文献番号/出願番号 |
発明の名称 |
出願人/権利者 |
ステータス |
| 特開2026-050175/特願2024-155213 |
吸込ノズル及び掃除機 |
パナソニックIPマネジメント株式会社 |
審査請求前 |
| 特開2026-025392/特願2024-128122 |
電気掃除機 |
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 |
審査中 |
| 特開2025-180993/特願2024-088721 |
電気掃除機の吸口体およびこれを備えた電気掃除機 |
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 |
審査中 |
| 特開2025-180992/特願2024-088719 |
電気掃除機の吸口体およびこれを備えた電気掃除機 |
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 |
審査請求前 |
| 特開2025-069963/特願2025-023918 |
吸込口体および電気掃除機 |
東芝ライフスタイル株式会社 他 |
特許有効 |
| 特許7639229/特願2024-184808 |
吸込口体および電気掃除機 |
東芝ライフスタイル株式会社 |
特許有効 |
| 特許7577180/特願2023-179394 |
吸込口体および電気掃除機 |
東芝ライフスタイル株式会社 |
特許有効 |
| 特開2024-015825/特願2022-118150 |
電気掃除機の吸込口体および電気掃除機用吸込口体の回転ブラシ |
シャープ株式会社 |
特許有効 |
| 特開2023-169457/特願2022-080551 |
電気掃除機システムおよび電気掃除機 |
三菱電機ホーム機器株式会社 他 |
特許有効 |
| 特表2024-539075/特願2024-523242 |
ブレード駆動構造、毛髪切断ローラブラシ及びクリーニング装置 |
寧波富佳実業股分有限公司 |
特許有効 |
| 特開2023-030877/特願2021-136260 |
掃除機用の吸込ノズル及び吸込ノズルを備えた掃除機 |
パナソニックIPマネジメント株式会社 |
特許有効 |
家電メーカーがこれだけ髪の毛からまりを課題だと思ってくれてるなんて姉も喜ぶに違いない。
しかし上記のうち、
- 日立のシャープのものは、「絡まった髪の毛によってローラーが止まってしまうのを防ぐ」という目的の特許。そもそも髪の毛が巻き付いていることにムカついている僕らの課題を解決してくれていない
- 三菱のは、「掃除が終わった後に回転ブラシ清掃工程を実施する」というもので、とても巻き付いている髪の毛を清掃できるとは思えない内容
となっており、ちょっとイマイチっぽい感じだった。
異色なのは寧波富佳実業の特表2024-539075で、なんとカッターのようなものを動かして毛髪を切断するという過激な技術である
代表図面がよくわからないものだったが図8にのみ毛髪切断ブレードが書かれていた。この図の1がブレードであり、3の部分が、8~10あたりの機構によって左右に動くことによってブレードに絡まった毛髪を切断する仕組らしい。
特表2024-539075の図8
実際に日本で発売されている掃除機にこれが実装されているかどうかはわからない(調べていない)。
東芝ライフスタイル株式会社のものは最初に説明したのと同じ、「片持ち支持で髪の毛を自由端に移動させて吸い込む」コンセプトのもののようであった。しかしどれもパナソニックよりも後に出願されている。
この中の東芝ライフスタイルの特許の中でも最も先に出願された特許7577180の出願日は2023/10/18であり、パナソニックの特開2023-030877の公開日は2023/3/8(出願は2021/8/24)なので、パナソニックの特許を見てから東芝ライフスタイルが特許を書いて出願した可能性もありうる。
東芝の特許はどのようなものかというと下記の図面で分かる通り、コンセプトはほぼ同じである。しかしながらパナソニックの特許で特徴的だった「ローラーを円錐型にして中央に塵埃を寄せる」というものではなく「ローラーについているブレードの向きによって塵埃をかき寄せる」となっているところが違う。
ブレードのV字状の谷部は、吸込口に近接する、アジテーターの中央部に配置されている。この電気掃除機用吸込具は、V字状の谷部より先行してブレードの両端部が吸込口側に接近するようにアジテーターを回転させる。そうすることで、電気掃除機用吸込具は、順次、床面の塵埃を帯状のブレードの両端側からブレードのV字状の谷部側にかき寄せる。かき寄せられた塵埃は、効率よく吸込口より吸引される。
特許7577180の図5
これがちゃんと機能するのならそれでいいような気がする。しかしこの図面においてブレードの両端側が先行する回転方向は、自分が思っていた回転方向とは逆だったので、もし店頭でこのタイプの掃除機を見つけたら回転方向を確認しようと思った。
ちなみにパナソニックの最新機種ではこういうコンセプトではなく、単にリブを設けてそもそも髪の毛がまきつかないようにするという方向となっている。構造はとても単純になったのに、元の特開2023-030877の「からまらないブラシ」よりも効果が高そうな「からまないブラシPlus」として宣伝している。これはさっき調べていて気付いた。
panasonic.jp
これは上記のリストの一番上、特開2026-050175で示されているものである。
こんな単純な構成で問題ない、もしくはより効果が高いのであれば、そりゃわざわざ片持ち2ローラーのような複雑な構造はやめちゃうよな。「からまらないブラシ」の、対向する2つの片持ち円錐形ローラーの掃除機ヘッドはメカメカしくてカッコいいんだけどな。