ある夜、場末のSNSを見ていると「顔から出た皮脂をクリームに変えるパウダーが気になる」という書き込みがあった。
自分は化粧などしたことがないし全然わからないが、皮脂をクリームに? そんなことができるのだろうか?
調べてみたら確かにそのような商品が存在していた。
POINT 1
日中の肌変化にあわせて
美しい仕上がりが持続
べたつく環境下では、余分な皮脂・汗を吸収してテカり
を防ぎさらに皮脂をクリームに変換して粉浮きを抑え、
乾燥する環境下では、乾きに応じて水分を放出し、肌の
乾燥を防ぎます。ふんわりと光をまとったような美しい
仕上がりが長時間持続するセンシングパウダーです。
どういう技術なのか気になるのだが、
資生堂のような会社が、
こんなおもしろ技術を特許出願していないはずがない。
この製品の発売日が2024年3月21日なので、それ以前の3年間くらいに出願された特許を調べたところ、下記のやつが見つかった。
【公開番号】特開2023-26065(P2023-26065A)
【公開日】令和5年2月24日(2023.2.24)
【発明の名称】化粧料
【請求項の数】9
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-026065/11/ja
:
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
皮脂の過剰分泌によって、テカリやべたつきが生じてしまう。また、過剰に分泌された皮脂とメイクアップ化粧料の成分とが混じることで、経時での化粧崩れを引き起こしてしまう。これらを防止するために、酸化亜鉛等を配合して、皮脂を固化させて、テカリや皮脂崩れを抑制することが知られている。
:
酸化亜鉛は日焼け防止剤としても知られている。特許文献1では、酸化亜鉛等の無機粉体と、HLB9.5以下の特定の界面活性剤を組み合わせることで、酸化亜鉛を水相に安定的に配合させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献1】 特開2016-74660号公報
【発明の概要】
デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛は皮脂固化効果を有することが知られているが、これを水相に配合すると、凝集が生じることがわかってきた。
本発明者らは、驚くべきことに、デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛と、HLB10以上の炭化水素系非イオン界面活性剤とを組み合わせることにより、水相中に酸化亜鉛を分散させることにより、高い皮脂固化効果と良好なみずみずしさとを有する化粧料とすることができることを見いだした。
日焼け防止剤としての先行技術があることがわかる。
これは堺化学工業株式会社が出願しており、しかも割と最近である。
むしろこの先行技術のほうが凄いのではという気がしてくる。
しかしこの先行技術の特許はみなし取り下げとなっており審査請求されなかった。
実際のところ、この堺化学工業の先行特許は皮脂崩れを抑制する効果を狙ったものでは全くなく、日焼け防止剤として酸化亜鉛を使ったクリームを安定させることだけを狙っているようだった。
堺化学工業にとっては
これはあまり重要な技術ではないということだったのか、
その程度の日焼止め効果にはエンドユーザはあまり金を出してくれないと判断したのか、
なんにせよこの特許は文献が公開されただけで特許を取得するアクションを起されることはなかった。
資生堂は、皮脂固化効果を得るために使われる酸化亜鉛が、日焼け防止剤にも使われていることに着目し、似たようなアイデアがメイクの皮脂崩れを防ぐことに使えると考え、精製したクリームに皮脂の主成分であるオレイン酸を加える実験などを行って良好な化粧料を作るレシピを発明した。
そして特許を出願した上で「皮脂をクリームに変換して粉浮きを抑える」という、なんだかとても魅力的に感じる商品をちゃんと開発して発売した。そんなわけで、この資生堂の発明には相当な価値がありそうな感じがする。
資生堂の特許の経過情報を見ると下記のようになっており、つい最近特許として認められたことがわかる。
出願審査請求書 2024/05/15
拒絶理由通知書 2025/06/17
手続補正書・意見書 2025/08/01
特許査定 2025/11/21
補正後の請求項1は下記のようになっていた。アンダーライン部分が追加された箇所で、配合物のパーセントに制限がつけられている。補正によって請求の範囲は狭まってはいるが、このパウダーを丸パクリすることはできない程度には請求項の範囲は確保されているように思える。酸化亜鉛が20%を超えていればこの特許には引っかからないがそこまで酸化亜鉛が多くしないと引っかかってしまう(化粧品など、門外漢すぎてよくわからないが)。
【請求項1】
(A)デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛、
(B)HLB10以上の炭化水素系非イオン界面活性剤、および
(C)水
を含んでなる化粧料であって、
(A)デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛が水相に分散されており、
(A)デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛の配合量が、化粧料の総量に対して、1~20
質量%であり、かつ、
(A)デキストリン脂肪酸処理酸化亜鉛と、(B)HLB10以上の炭化水素系非イオ
ン性界面活性剤と、の質量比が1:0.05~1:0.3である、化粧料。
ちゃんと製品として成立するところまで技術開発をして、そしてちゃんと特許を取得しているのは知財がしっかりしていて好感が持てる。











