ピンハネとかいうけどさ

「ピンハネ」が、日本を貧しくしている。 とかいう記事があって雑な議論がされてるけど実態はだいぶ違うのではないかと思う。なお、僕は発注元から4次受けくらいまでのすべての階層を経験したことがある。
(しかし下の話も僕の少ない経験を元に書いているのでそれなりの雑さではある)


発注元はだいたい何をしていいかがよくわかっていないので完成品を作ってもらえるA社に業務委託するわけだ。
ところがシステム開発というのはブレ幅が大きい。見積通りの予算や規模で完成するかどうか、とてもあやしい。最初10人で1年間くらいでできそう、と言っていた案件が1.5年や2年かかることはザラにある。いっぽうでラッキーにも8か月で完成してしまうこともある。
さて一方で発注元としては予算がある程度限られているしきっちりした見積で安定して仕事をしてくれるところに頼みたい。たとえば10人を1年間張り付けてやりますよって見積もってたけどなんかちょっと基本的な設計をミスっていたことが途中で発覚しリカバリのために途中から15人に増員しました、と言われても困ってしまう。そうするとちょっと余分に払ってもいいからそういうトラブルが発生したときには自腹でリカバリしてくれるところに頼むことになりがちである。それが元受けのA社の役目だ。要するにA社が本当に何も仕事をしていなかったとしても、ピンハネしているというけどもそのピンハネ額は保険料の意味合いが大きく、運がよければ1億できるところを最大5000万円まで赤字でもやりきってくれる、みたいなことをウリにされちゃたら、高リスクな案件のとき、少し高くてもそこにお願いしちゃうよね、ということなんだ。


だからまあ、見積は1人月100万円x120人月ですよー 、と言いつつ、実際に使う額は80万円x120人月で、残りの20万円はプロジェクトが炎上したときに使う予算や、A社のなかでの他のプロジェクトの赤字の補填に使われているのだ。もちろんそのほかに下請けがやってくれなさそうな、全体の開発の段取りとか、顧客への進捗報告とか、不具合説明の資料作成とか、そういう「一見、下の人間には無駄なように思えるんだけど顧客は必要としている」作業をやったりしているのでその分にも充てられている。


たとえば富士ソフト(9749)という僕ら世代には悪名高いソフト屋があり、いかにもピンハネをものすごくやってそうな印象があるが、営業利益率は5%ちょっとしかなく、そんなに利益が出ているわけではないのはそういう要因が半分以上を占めるのではないかと思っている(残りの要因として考えられるのは富士ソフト社員がほかのことに使っちゃってるってことなのだが…)。



さてA社的には受注してしまったら何がなんでもやりきらないといけない。そして開発人材が足りない。いや、A社にも開発できる人は居ると思うんだよ。ただね、2次請けとか3次請けとかがやらないといけないような状態になっているプロジェクトってのは、A社で人手が足りないから回ってくるので、そりゃ2次請けからすれば「そういう、丸投げプロジェクトばっかり」に見えるかもしれないけど、そうじゃないプロジェクトは下からは見えないところに少数存在しているんだ。なぜ少数かというとそりゃ巨大プロジェクトほど人手が足りなくなるし、巨大プロジェクトじゃなければ普通に僕みたいなやつと共栄さん2人、くらいでチョコレートを食べながら開発して終わらせてしまうからなんだ。


さて下請けのB社やC社の立場になると、またその下が居るのか? という話だがそりゃまあ人が足りないときはしょうがないじゃん。でもしかしこのレイヤは本当に実装やインテグレーションの主体を担う技術者が必要なわけで、「Javaができます」「できるとは言ったがそれはHello, Worldが書けるということだ!」みたいな人が来ちゃうと困っちゃうわけです。でもたまにそういうヤツでもなんとかなっちゃう現場もあったりするから怖い。まあなんにせよB社が人が足りなくて、ヘルプでさらに下のD社に委託するときには、そういうヤツをチェンジできる権利が欲しい。あるいは急に家族の都合とか、病んでしまったりとかで出てこなくなったりしたときに代わりを用意してくれるサポートが必要。そういうことがD E F社には求められている。当然、B社からD社には、運よくそういうトラブルがなかったときと比べると高い単価が支払われているだろうけど、そういうトラブルが確率的に起こることを想定したリスクプレミアムが上乗せされているだけであり、単純にいまの案件をやっている技術者の価値がその単価分だけある、というわけではないのだ。もし僕が、月単価80万円で仕事を請けていて、諸経費等が月20万かかったとしても普通に60万残っているはずなのに、月20万しか手取りがなかったとしたら、それは僕が居る階層が、「素人でほとんど役に立たない奴とか、急に会社に来なくなったりする奴にあたる確率が40%以上」みたいな残念なところだからなんだ。


で、ピンハネ率を下げたい僕らがやらなければならないことなんだけど、「ピンハネやめろ」と大声で叫ぶことだけでは、たぶんダメだ。
ピンハネ分が保険料の意味合いを持っているのだとすれば、それを減らすためには事故率を減らすことだ。安定した見積ができる枯れたフレームワークや技術を採用していくようにすべきだし、チャレンジやイノベーションという言葉で新しいものを使いたがる奴らとは距離を置くべきだ。一方で報告資料作成とか進捗管理費用に費やされているのであれば、A社が作る報告資料よりも発注元にわかりやすいようなフォーマットの資料が自動的にできてしまうサービスを流行らせて、「なんだA社いらねーじゃん」と発注元に思わせることだ。そしてfizzbuzzが書けないようなヤツにプロを名乗らせないようにしないといけないような気がするのだが、これはいちばんむつかしいし賛否がわかれると思う。


(リンク先のエントリでは高プロと絡めてたけど、現時点では、あんまり関係ないんじゃないかなあ…?)