Twitterとかビッグモーターのやつ

TwitterがイーロンマスクによってXになってしまい、そこそこ良い感じで頑張ってブランドもできてきていたものが「あんまりわかってない人」がトップに立って大ナタを振るった結果半年でボロボロになるというのを目の当たりにしていた。

僕も最近、自分達が3年以上の時間をかけてつくったソフトウェアの所有権が他者に売り払われ、彼らの思いつきによって良かった部分を改悪されたり、名前が気にいらないからって多くの工数を割いて変更されたり、ドメインの特性上messyな設計になっていた部分を「なんでこんなに汚いんだ」などと言われて改造された挙句に仕様を全く満たせないようなものに変えられたりするような出来事が2回ほど連続して発生し、とても悲しかったのでとても他人事ではなく状況を見守っている。

(自分のやつはTwitterみたいに沢山の人に見えていたプロダクトではなかったのであまり悲しまれることもなく消滅してしまったのだが。Twitterは元々たくさんの人に好かれていたし現状を憂いている人がたくさん居るのでそのへんはちょっと羨ましいなと思ってしまう)

 

 

ビッグモーターの件も、あそこまで酷くはないがここしばらくわりと高圧的に5Sとやらをやらされていたので非常に気になる出来事だ。店の前の環境整備は、どこかの店舗が最初に小規模にあれをやった結果が、トップに気に入られて全社にベストプラクティスとして拡散されたんだと思う。客観視したときとか、ちょっと価値観の違う人が見たときに「ちょっとそれはやっちゃまずいだろ」と思われてしまうようなことを無批判に褒めたたえるのはよくないし、ましてやそれをできないというチームに対して「あっちのチームはできているのにどうして君たちにできない理由はないはずだ」なんてことを言うのは本当によくない。

Apple Vision Proには期待している

Appleが5日に発表したVision ProというARゴーグル、価格に落胆したという声をたくさん見かけた。$3499ということは日本上陸するときに運がわるいと65万円とかになっている可能性がある。でも僕はかなり期待している。


Vision Proがいいなと思ったのは、「Vision Proをつけていないときと同じだと思うくらいの風景が見える」というところだ。実際にはカメラから取りこまれた画像が目の前のディスプレイに表示されているのに。これをつけたまましばらく日常生活ができるようになったとしたらどうだろうか。目が不自由でもこれまで通り生活できるようになったりするんじゃないか。白内障の手術をして眼内レンズを入れた人がいちばん困っていたのは焦点が合わないことと眩しすぎることのようだった。Vision Proを被って生活できればどちらも解消するじゃないか。

 

 

聴覚について考えると、僕が物心ついたときから補聴器というものはあったがわりと大きくて目立つ外見をしていて、自分も歳を取るとあんなのを付けないといけなくなるのかなあと気になったりしていた。最近見た補聴器は小さくて充電式でぱっと見では装着していることに気付かないくらいになっていて技術の進歩はすごいなと感心したが、話を聴くと数十万円するシロモノだということだった。しかしよく考えてみるとそのような補聴器に必要な技術は全てAirPods Proに既に完全に搭載されていて、ソフトウェアの調整さえすればAirPodsは補聴器を完全に置き換えることができるのだ。AirPods Proなら若い人もつけているので目立つこともないし、大量生産されているのでリーズナブルな価格で購入することができて日常生活を送れると思う。

 

 

これがAppleが補聴器を作ります、だったら全然イケてないし、そもそも補聴器というだけのデバイスに10億トランジスタLSIを入れることなんて不可能だ。でもAirPods Proだとそんな途方もない性能の半導体をそこにつっこむことができて、そしてそれを補聴器的な用途にも使うことができるんだ。僕はそれと同じことが視覚にも起きてくれることを期待している。なんかよくわからないプロ用のAR用途とか、若い金持ちのホームシアター用途としてなぜかすごい性能を持ったコンピュータ内蔵のHMDが売れ、それが視覚にちょっと障害がある人とってとても役に立つデバイスになるのだとすれば、それはとても素敵なことだし、そんな未来を応援しないわけにはいかないのだ。

Olympicで売ってた1980円のANC WIRELESS EARPHONE

昨日オリンピックというホームセンターに初めて行ってみたところノイズキャンセリング機能つきのTWSイヤホンがなんと1990円で売っていた。しかもAAC対応という。

裏面はこんな感じの説明であった。


正直このようなスペックの製品は3500円以上が相場であり2000円の値札がついているのはすごい。すごすぎるので買ってしまった。

 

 

中身はこんな感じであった。

使ってみた結果なんだが。

  • イヤホンとしての機能はそれなりにちゃんとしており、ペアリングも全く問題なくできるしステレオでちゃんと音楽が聴けるし、破滅的に音質が悪いという感じでもなかった
  • 右のイヤホンからは電源が入っている間はANCや外音取り込みモードのON/OFFとは関係なく「ピピピピ…」「ピッピッ…」というような小さい音が断続的に鳴っており気になる。この異音は音楽を鳴らしているときも聴こえる。これは気持ち悪い
  • 期待していたANC機能だが、ANCをONにしてもOFFにしても何も変化がないので、機能としては正しく動作していない。
    外音取り込みモードについても同様で、何も聴感上変化が感じられない。もしかすると微妙に違っているのかもしれないが意識できないノイキャンや外音取り込み機能には意味がない
  • HFPがあるのでマイクの音質を確認してみたのだがめちゃくちゃ小さい音量でしかマイク音声が録音できず音質云々以前の問題で使いものにならない感じであった

普通はこのようなTWSのためのLSIを設計してこんな異音が出る設計にするはずがないとは思うのでこの異音は個体不良の可能性も十分にある。ANCがONのときだけ異音が発生するというのなら、マイクが不良なためにANCが正しく動作しておらず異音が発生している、みたいな可能性はあるかなと思ったのだが、ANCをOFFにしても異音が鳴りつづけるのでそれも違うような気がする。

ANCをOFFできない仕様なのかもしれないがそれはそれで加工した音質でしか聴くことができないということなのでやっぱりダメである。

そんなわけでこれは自分の評価基準では使いものにならない不良品なのであるが、この音が気にならない人とか、片耳だけでいい人、にとっては「完全に役にたたないようなものではない」という感じではある。でもANC要らないなら他の1000円〜1500円の価格レンジの製品でいいよね。

スプラトゥーン3の特許(part2)

去年9月にスプラ3の特許をいくつか見つけて紹介していたがそのあと検索しているとさらにいくつか特許出願が見つかった。昨年8月に出願された特許がいくつか公開されているのは新規だが、昨年9月の記事を書く時点ですでに公開済で見逃がしていたものもあった。網羅的に見れていないことがバレバレであるが少し興味深いと思ったものを追加で紹介する。

 

特開2023-11545(P2023-11545A)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-011545/E3A86521D5ACD9A9CA48638C70C1BD4D39088A74552BB9E8751B498A2B3EC3C9/11/ja

【公開日】令和5年1月24日(2023.1.24)
【発明の名称】ゲームプログラム、ゲーム装置、ゲームシステム、およびゲーム処理方法
【出願番号】特願2022-123323(P2022-123323)
【出願日】令和4年8月2日(2022.8.2)

これはトリカラバトルの特許である。

要約はシンプルであるが、第一請求項もほぼこのままの内容である。

【解決手段】第1グループの第1登場領域を当該ゲームステージの中央付近に設定し、第2グループおよび第3グループの第2登場領域および第3登場領域を当該第1登場領域より当該ゲームステージの端部側にそれぞれ設定し、キャラクタが所属グループの対応色に描画されている領域にいる場合に、当該領域にいない場合よりもゲームにおいて有利となるように当該キャラクタを動作させる。そして、各キャラクタの動作に基づいて第1グループの勝利条件である第1条件が満たされる場合には第1グループをゲームにおける勝者と判定し、第2グループおよび第3グループの勝利条件である第2条件が満たされる場合には、当該第2グループおよび当該第3グループを当該ゲームにおける勝者と判定する。

「キャラクタが所属グループの対応色に描画されている領域にいる場合に、当該領域にいない場合よりもゲームにおいて有利となるように当該キャラクタを動作させる」というスプラトゥーン以外ではあまり有効じゃない制限がかかっているのでそこまで広い特許ではないかもしれない。

図16などはトリカラバトルを知ってる人ならニヤニヤしてしまうような図である。

一方で、トリカラバトルの詳細について解説が記載されているのであるとき突然分割された内容が出てくるかもしれず油断ができない内容になっている。具体的には下記の図18である。今回の出願ではまったくこのような流れのゲームシステムについては請求の範囲に表われていないが他のゲームで真似をするものが出てきたときに任天堂はいろんな手段を検討できるような気がする。

 

 

特開2023-11544(P2023-11544A)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-011544/87A9F9C45883C93A8BB2D0A4AC3AAD0AD98FC8F850DF0A0B5B8D30C502B6CA45/11/ja

 

【公開日】令和5年1月24日(2023.1.24)
【発明の名称】プログラム、ゲーム装置およびゲーム装置の制御方法
【出願番号】特願2022-117066(P2022-117066)
【出願日】令和4年7月22日(2022.7.22)

 

 

スプラトゥーン3が前作より良くなった点は、ゲーム起動直後のステージ紹介の語り(バンカラニュース)をL3ボタンでスキップできるようになったことである。「あんなのスキップできるのが普通だろ」と思っていたのだが、なんとそれが特許として出願されていた。

 

【課題】ゲーム情報を適切に通知しながら、プレイヤキャラクタの操作を早期に開始させる。
【解決手段】コンピュータをゲームの実行中に表示するメッセージを決定するためのデータを取得するデータ取得部と、取得したデータに基づくゲーム情報を示す複数のメッセージが順次表示されるように第1画像を生成して通知する通知処理を実行する通知処理実行部と、通知処理の終了後に、ユーザによる第1操作入力に基づいて仮想空間内においてプレイヤキャラクタを移動させる移動制御処理を含むゲーム処理を実行するゲーム処理実行部と、通知処理の実行中にユーザによる第2操作入力が行われた場合、通知処理を終了してゲーム処理を開始する第1切替部として、機能させる。ゲーム処理実行部は、第1切替部によりゲーム処理が開始された場合、取得したデータに基づくゲーム情報を示す複数のメッセージが自動的に順次表示されるように第2画像を生成して通知する。

いったいどのようなポイントを特許として主張しているのか。下記のような感じだ。

  • ニュースをスキップしたあと、ゲーム画面に重ねてニュース内容を順次表示する(請求項1)
  • ニュース画面を表示するか、ゲーム画面に重ねてニュース内容を表示するだけにするかをシステムが判断できる(請求項2)。それは取得したニュースの内容で決める(請求項3) 上記を実装はするけどゲーム起動時は毎回ニュース画面からはじまるようにする(請求項4)
    … これはゲーム中にスケジュール更新があったときにスプラ2では毎回ハイカラニュース画面になっていてウザかったのが、スプラ3ではポップアップの表示だけになっているというアレだ。
  • データによってはニュース画面をスキップさせないようにする(請求項5)

なるほど。当たり前と思っているがここを書かれると確かにどこか新規なアイデアがあるのかもしれないなと思ってしまう。もし先行例を探さないといけなくなったらちょっとすぐには思いつかないような気がする。

順次表示する部分の説明に使われている図は下記のような感じだ。

 

なお歴代スプラのニュースの長さを比較した動画が下記に上げられている。スプラ3はそもそもロードが速くて快適なのだが、これはソフトが最適化されたのかカートリッジに入っているフラッシュメモリの性能が上がったのかどちらなのかはわからない。

www.youtube.com

特開2022-124255(P2022-124255A)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2022-124255/0151712E021E62040F98271A5D4A8EBFA507DBAB13042E24BE240522180A380D/11/ja

【公開日】令和4年8月25日(2022.8.25)
【発明の名称】情報処理プログラム、情報処理システム、情報処理装置、および、情報処理方法
【出願番号】特願2021-21911(P2021-21911)
【出願日】令和3年2月15日(2021.2.15)

 

これは昨年9月の時点で公開済だった。どうして前回これを見逃したのか悔まれる。

スプラ3は2までと違いプレイヤーは空中のスポナーに乗って(あるいはスポナーにつかまって)出現し、着地点を選んでフィールドに入ることができる。ここで着地点を選ぶかわりにスーパージャンプの操作を行うことができ、その場合にはスポナーから直接目的の位置にスーパージャンプすることができる。この特許はまさにこのことについて出願している。

【課題】ゲームの戦略性を向上する。
【解決手段】情報処理システムは、少なくとも、敵オブジェクトの攻撃によってプレイヤオブジェクトが退場条件を満たした場合、当該プレイヤオブジェクトをゲームステージから退場させる。情報処理システムは、プレイヤオブジェクトがゲームステージから退場した後、(a)第1条件が満たされる場合、ゲームステージの第1領域内の位置であって、第1の種類の復帰入力により指定される指定位置に基づいてプレイヤオブジェクトを復帰させ、(b)第1条件とは異なる第2条件が満たされる場合、ゲームステージに配置されている所定の他オブジェクトの位置であって、第2の種類の復帰入力により指定される指定位置に基づいてプレイヤオブジェクトを復帰させる。

 

ここではキルされたことを退場と表しており、キルデスの概念がないゲームにおいてもリスポーンがあるなら同じでしょというようなことを示している。請求項を読むとわりとややこしい感じだが下記のフローチャートがほぼ全てである。

スポナーの絵がないか、図面を探したのだがなかった。残念。

 

特開2023-16051(P2023-16051A)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-016051/E99AD180AE40370FF3D4E14931F57C18B138697A91C4929263FE8ECD33D97F8D/11/ja

【公開日】令和5年2月1日(2023.2.1)
【発明の名称】情報処理プログラム、情報処理システム、情報処理装置、および情報処理方法
【出願番号】特願2022-181366(P2022-181366)
【出願日】令和4年11月11日(2022.11.11)

これは撮影モードに関する特許で、プライベートマッチのさんぽだと通常は敵チームと戦える状態になっているのだけど撮影状態になったら無敵になって相手を殺せなくするよという、そういう機能を特許として請求しているようだ。確かに打ち合っている写真を撮りたいというのはあるしそこで相手が死んでしまうようでは写真を撮りにくいだろうからこの機能は必要である(自分にはSwitchで気軽に呼び出せる友達が居ないのでこの機能を試すことができてない)。

【解決手段】第1プレイヤの操作モードがキャラクタ操作モードの場合は、第1プレイヤによる操作に基づき第1キャラクタの動作制御を行う。また、第2キャラクタの攻撃動作によって退場条件が満たされた場合、第1キャラクタをゲームステージから退場させる。第1プレイヤの操作モードが撮影モードの場合は、第1プレイヤによる操作に基づき仮想カメラを制御し、その撮影画像を保存する。更に、第1キャラクタが第2キャラクタの攻撃動作によって退場させられないように、第1キャラクタに対する攻撃を無効化する、あるいは、当該攻撃による退場を無効化する。

 

 

 

これは出願日がスプラ3発売後となっているが、さんぽモードで写真が撮れるようになったのは11月30日のアップデートなので、きっちりその公開前に出願を完了させている。

請求項とか詳細な説明はちゃんと読んでないが撮影モードを示している下記のような図はあった。

 

特開2023-11546(P2023-11546A)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-011546/172BC9A44C1A09E562EA830B5830CB46E5AA9FC5D93B9A0E1C9E4DE697027627/11/ja

 

【公開日】令和5年1月24日(2023.1.24)
【発明の名称】情報処理プログラム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理システム
【出願番号】特願2022-130264(P2022-130264)
【出願日】令和4年8月17日(2022.8.17)

これはインクの塗りをどうテクスチャ処理するかについて書かれた特許である。スプラ3の公開直前に出願されているのでスプラ2から3にかけて処理方法が変わったということなのだろうか。「要約」は下記のようになっている。

【課題】仮想空間内の所定の範囲が色更新イベントで更新された状態を表現する場合に、違和感のない表現が可能な情報処理プログラム、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理システムを提供すること。
【解決手段】接触判定用のコリジョンに基づき仮想面を生成する。更に、第1テクスチャと対応付けられたポリゴンメッシュを仮想面に対応付ける。色更新イベントの対象となる所定範囲がコリジョンに重なる場合、コリジョンと仮想面の対応関係に基づき、仮想面に対応付けされた第2テクスチャ上の座標の色を更新する。そして、第1テクスチャと第2テクスチャを用いてポリゴンメッシュを描画する。

うん? わりと普通のような気がするし、スプラ2でもこれくらいやってたんじゃないのか?

「発明が解決しようとする課題」には下記のようにある。

  上記のようなゲームにおいては、各キャラクタに対応するインクの色で塗られた地面の表現を行うために、仮想空間の全体を覆う大きさのテクスチャに対して、描画データに従ってインクの色を書き込んでいき、それを仮想空間に投影することで、仮想空間への描画を行う、という処理を行っていた。
  しかしながら、例えば段差がある場所や曲面等に対して、上記手法で投影する場合、インクが当たった箇所と、実際に塗られる箇所とにずれが生じる場合があった。例えば奥行き差や高低差のあるような場所付近にインクが当たった場合に、奥行き差や高低差が反映されず、インクが当たった箇所からすれば本来は塗られるべきではない位置にまでインクが塗られてしまう場合があった。

スプラ2までは「インクが当たった箇所からすれば本来は塗られるべきではない位置にまでインクが塗られてしまう場合があった」のかもしれない(あまり目立ってたとは思えないが)。どうにも釈然としないものがあるが、塗りのテクスチャともともとのポリゴンのテクスチャは2重に貼られており下記のような図で説明されていたりするので、塗りについてざっくりとした内部処理を知りたい人は読んでみると勉強になるかも。

 

 

「財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生 」の書評を読んだ

反緊縮派が積極的にバラマキせよと今でも言い続けているのに若干不安があっていろいろ調べていたところ下記の金江先生の書評に行きあたった。リンク先はPDFである。これは2021年に書かれたものである。

https://stars.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=9419&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

 

だいたいMMTについて「わかりやすく解説」しているページでは「インフレにならない限り、国債はいくら発行しても問題はない」というようなことが書かれていて、でも何をしたらインフレにならないのか、何故いまインフレが抑えられているのか、がぜんぜん書かれていないことが多くて、なのでモヤっていた。しかしこの書評ではそれがちゃんと説明されていた。

予算に「財政的」制約がないからといって,政府ができること(そしてすべきこと)に「実物的」制約がないわけではない。どの国の経済にも内なる制限速度がある。それを決めるのは「実物的な生産能力」,すなわち技術の水準,土地,労働者,工場,機械などの生産要素の量と質である。(中略)。制約はたしかにある。しかしそれは政府の支出能力や財政赤字ではない。インフレ圧力と実体経済の資源だ。

そう。実体経済の資源が制約なのだ。生産要素の量と質が増える方向であれば支出してよい。でもそうじゃない方向への支出に制約が生じるのはMMTでも変わらないのだ。なにを持って生産要素の量とか質とか言っているのかに解釈の余地はあるのだが、全く将来に繋がらないけどもいまやっておきたい、みたいな活動に大金をつぎ込むとか、自分達がお金を払うけどそれで技術、労働者、工場などを得られるのは日本じゃなく外国企業、みたいなものに対する支出にはやはり制約が残るのだろう。

後半には金江先生の意見が書かれているがおおむね納得できると思った。

結局,ドルや円,ポンドといった主権通貨に政策余地が大きいのは,根本的には,その通貨の発行元であるアメリカ,日本,イギリスといった国の経済の生産力が高いからである。ジンバブエ新興国が主権通貨を持ちたくても,その国が経済発展すれば可能でも,生産力が低くては不可能だろう。だからこそ,たとえばアルゼンチンはドル建て国債を発行していたわけである。

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逆に言えば,日本は円建て国債を発行できるほど信用されているが,もし高インフレなどが起きて信頼されなくなったら,買われなくなる。

(納得したところを全部引用していると引用だらけになっちゃうので難しい)結局のところ日本の生産能力がいまのところまだ信用されているから国債が発行できているのであって、日本に競争力のある産業がなくなってしまったらアルゼンチンコースに嵌ってしまうのではないかという懸念がやっぱり解消されない。そしてハイテクな家電製品などの分野ではもう日本は世界に通用するものをほとんど作れなくなってしまった。1990年代にはあれだけ強かった半導体も完全に競争力を失なってしまった。自動車も最近の状況を見ているとそうなってしまってもおかしくない。

貿易赤字は「モノ」の黒字を意味する」ということも書かれている。たしかに貿易をしてモノを購入し、それが資産として残るなら「「モノ」の黒字」と言えると思う。しかしいまの日本の貿易赤字のうちかなりが化石燃料・医薬品が占めており、これらが「「モノ」の黒字」としてカウントできるのかどうかちょっと怪しいような気がする。それらが若い人達の将来を作るために使われているのであればよいのだが老人の延命に使われているだけなら問題かもしれず、そういう意味ではMMTではこれまでと同じかそれ以上に政府支出の使途であるとか輸入品目ごとの金額などに注意を払う必要があるのではないかという気がした。

 

GPTでプログラマの仕事がどうこうとかいうやつ

個人的にはGPT-4にコードを書かせて効率を上げようというやりかたはどこかで破綻するかゴミを量産してしまう可能性があるので慎重になるべきだと思っている。再現性がなくなんとなく動くようなものを作っていてはダメだ。

 

わたしも常々弊社のエンジニアに伝えていますが、最高のエンジニアリングとは「コードを可能な限り書くことなくビジネスサイドが実現したいことを迅速に実現すること」です。

GPT-4時代のエンジニアの生存戦略 - Qiita

この文章は誤解されそうだがこの人はGPTが登場する前からこのことをエンジニア達に伝えていたはずだ。「GPTが出てきたからコードを書くことが目的ではなくなった」のではなく、ずっと昔から「コードを書くことは手段で、コードをできるだけ書かないで目的を実現するのが正しい」だったのだ。

 

 

その上で、「GPTを使えば簡単にコードが書けるぞ」といってコードを量産するのは2流以下の人達のやることであって、コードが吐けるのであればその前の段階のものをソースコードとしたビルドシステムを構築するのが正しい姿であるような気がしてならない。「プロンプトエンジニアになるほうが正しい」というのは、「モデルを定義すればコードもテストも自動生成されるんだ」みたいなことを無邪気に信じているモデルベース開発信奉者を見ているかのような不安がある。

もし特定のプロンプトから安定して正しいコードが出力されるならそれはコンパイラと同じような役割になるだろう。一方で同じプロンプトを与えても出力されるコードが安定しないので、それを人間が確認してレビューし正しいコードに精錬する、というような開発スタイルになるならそれは確かにパラダイムシフトだ。じゃあコードが正しいかどうかもAIに確認させるようなシステムができてきて、正しいコードだけを自動的に実行するようなシステムができてきたら… もうそれは「プログラムコードを作るのではなくそのAIシステムを教育する」というような感じになってくるような気がする。そういうことで作られたソフトウェア(?)の再利用性はどうか、スケーラブルなのか、そのあたりが気になる。

中村邦夫さんのこと

ここ数日異常な忙しさで世間から遠ざかっていたが本日現世に戻ってみるとパナソニック元社長の中村邦夫さんのお別れの会というものが一週間くらい前に行われていた。

 

私は中村さんに会ったことは一度もなくて伝聞でしか知らないが、松下電器産業のころからパナソニックの歴代社長を並べて誰がいちばん好きかと聞かれたら中村さんと答えてしまいそうな気がする。よく知らない人には、中村さんの失政によってパナソニックは経営危機に陥ったなどと思われているだろうが、実態はおそらく違う。そもそも2000年頃の松下電器産業はなんだか怪しい不良債権を大量に抱えているような状態だった。

2011年~2012年頃のパナソニックが大幅な最終赤字だったのはプラズマの工場の減損もあったけどそれ以上に製品があんまり売れなかったり異常な円高が続いたこともあってキャッシュがなくなっていたからだと思う。テレビが地デジ移行の反動で売れてなかったという話はあるのかもしれないけど、携帯電話もコンパクトデジカメも全盛期と比べて全然売れなくなってしまっていた。そのへんを定量的に分析したような記事を僕は見たことがなくてよくわからない。でも携帯電話とデジカメだけで営利を数100億押し下げてしまってもおかしくないくらい2012年度は絶不調だったと思う。

例えば下記の2012年度と2010年度の決算ページの補足資料を見くらべてみるといろいろわかるはずだ。

https://news.panasonic.com/jp/press/jn130510-5

https://news.panasonic.com/jp/press/jn110428-3

2010年度から2012年度にかけて、テレビは9979億円から5254億円に、47%の売上減があったが、同じ時期にデジタルカメラは1837億円から1022億円に、43%売上が減少しているのだ。テレビみたいに地デジ化やエコポイントの反動があったわけでもないのにだ。携帯電話を含む移動体通信に至っては2010年度から12年度の間に主要商品ではなくなってしまい売上高が発表すらされなくなってしまった。

 

キャッシュがなくなってきたけど資産を沢山持っている会社がやるべきことは何か? 資産を売ることである。パナソニックはこのときかなり正しい優先順位で物事を進めたんじゃないだろうか。とにかく売れるものは売りまくるしかないということだ。このときにちょうど超円高で不景気になっていたタイミングだったせいでいろいろな売却損が巨額になり、さらに減損を積んだことにより巨額の最終赤字となった。

だからパナソニック社員の中でも経済に詳しい奴らは2012年度の決算発表で7543億円の最終赤字を見てもなんにも驚いていなかった。あれだけ安くなった不動産をキャッシュのために売らざるを得なかったのなら損失が計上されてしまったのもしょうがないし、2012年度は単独では経常利益がちゃんと出ていて(前年度赤字だったAVCネットワークスやデバイスも黒字化していた)、正しい会社になりつつある予感がしていた。

 

Wikipediaを見ると事実と異なるかミスリードを誘うようなことがたくさん書かれているように見える。たとえば冒頭の部分

プラズマテレビ事業を推進したが失敗し、社長退任後、1兆円を超える巨額の赤字を2年連続で計上し、経営危機を招いた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E9%82%A6%E5%A4%AB

まるで2年連続で1兆円超の赤字が出たかのような書かれ方だが実際には2011年度が7722億円の赤字、2012年度で7543億円である。そしてプラズマテレビ事業を推進してしまったことが理由の全てであるかのような書かれ方もどうかと思う(同時期に、年金運用リスクを企業からなくすための確定拠出年金制度への移行などが行われ、そのための費用が必要であったことは明白であるし、他のいろいろなものの減損もおそらくしているだろう)。

 

Wikipediaから参照されている https://gendai.media/articles/-/36089 の記事には、下記のように書かれているが、これはちょっと違うと思う。

パナソニックは、中村氏が社長・会長時代、プラズマへの過剰投資や三洋電機買収などの合理性を欠いた経営判断ミスと、それらが間違っていたと分かった後もミスを糊塗したため、「傷口」を拡大させていった

三洋電機買収にはおそらく過去のしがらみが大きく絡んでいる合理的な理由があったのだと思う。中村さんが社長になるまで、松下電器産業はたくさんの闇や怪しい部分があった(それは僕がまだ若かったというだけかもしれないが)。松下興産もどれだけ負の遺産を抱えているかわからないし、どこまでが電器産業と関連しているのかわからないけど、電器産業と重複している事業をやっている松下の名のつくたくさんの会社(通工とか電工とか、九州松下とか寿とか)の整理もどうつけていいのか謎に満ちていた。しかし中村さんが会長を退いたときには、そのへんの気持ち悪い感じのものがかなり消滅してクリーンになっていた。

シャープのように身売りすることなく、東芝のように家電部分を売っぱらってしまうこともなく家電メーカとしてまだ生き長らえているのはあの2年間の巨額赤字とそれに耐えたそれまでのストックの賜物であり、世間での評価は非常に悪いが僕はあの時期にパナソニックの社長が中村さんで、それはとても良かったと思っている。

 

2014年以降のパナソニックの株価が冴えないのは残念でしかない。