任天堂の敵はコロプラではなくスマホプラットフォーマーだということ

任天堂コロプラとの訴訟、僕も木曜日に特許検索して特許3734820号を確認して、これは本当に強い特許だと思った。特に広いマップを移動するときにこの特許に記載されたUIを使えるかどうかで、ゲームの良さがかなり変わってしまう。


つまりこの特許3734820の有効性がどの程度かによって、ああいうゲームを作るときに物理コントローラを持つNintendo SwitchPS4がタッチパネルオンリーのiPhone/Androidに較べてどれくらい有利になるかが変わってくるのだ。
2004年から2007年にかけて任天堂がDSのタッチパネルでいろいろ試行錯誤し先行投資した結果そこそこ強い特許が生まれており、これが任天堂がアップルやGoogleが居るなかでまだゲームプラットフォームとしてそこそこの存在感を確保するための非常に重要な武器となっている。


任天堂に訴えられたコロプラが妙に強気な「真意」を分析してみたという記事に、コロプラ側から見た戦略について詳細に分析されているが、任天堂側から見た場合、コロプラ全体はともかく白猫プロジェクトに対しては圧倒的に有利な条件で勝利を収めなければ、これが前例となり他の有象無象のスマホゲームプラットフォーマーにも同じ条件での妥協を強いられることになってしまう。特許無効化などが認められてしまった日にはNintendo SwitchiPhone/iPadに対する優位性が大きく毀損される。
クロスライセンスなどで妥協してしまったら、他のたとえば中国の大手スマホコンテンツ会社に大量の似たような(そして少しずつ違う)特許を出願し、同様のクロスライセンスを求めてくるだろう。それは結果的にはほとんどただで特許を許諾することになってしまうのと等価である。
今回の件はコロプラ側が負けた場合には44億円+αの損害になるが、任天堂が負けた場合の任天堂の損害を金額換算すると300億を下らない額になるのではないか。もし僕が今の任天堂の技術トップであれば、この件はまさに聖戦であり本当に全力を尽くして戦う必要があると考えるだろう。




つまるところこの訴訟でコロプラが勝って一番喜ぶのはコロプラではなくTencentやNetEaseのような中国資本のゲーム会社だってことになると思う。単純に任天堂コロプラの企業の規模の差とか、ベンチャーだからとかで手加減を求めたりといったことがないことを祈っております。

追記

コロプラを訴えた任天堂特許戦略の考察を読んだ。この記事には

(文字が小さく見えにくいので、)特に注目したい部分と、この部分を解説している特許公報の図面を一部引用しました。つまり、この部分がコロプラ社の特許侵害とうわさされている「ぷにコン」の技術に引っ掛かるように訂正したと推測できます。

と書かれていて、コロプラへの指摘直前にこの特許の内容を広げてぷにコンが引っかかるように訂正したかのように書かれているが、事実はまったく正反対であり、どちらかというとこの請求項の請求範囲を狭める方向に修正がなされている。


このときの訂正審判は特許庁http://tokkyo.shinketsu.jp/decision/pt/view/ViewDecision.do?number=1320441 で確認することができる。

  • マウス・トラックボール・タッチパネルなどを含む「ポインティングデバイス」を「タッチパネル」に修正
  • 「…入力方向および…入力距離の少なくとも一方に基づいて」を「…入力距離に基づいて」に修正
  • さらに「前記指示座標が前記基準位置を中心とした所定半径を有する円領域からなる制限範囲を逸脱したときには,指示座標が前記制限範囲の外縁部にあるときの入力距離に基づいて」という制限を追加


これはどういうことかというと下記のような状況だったと想像できる。

  • コロプラ側から「任天堂の特許が先行してるけど、あの特許ってマウスとかトラックボールとかで昔からあるから無効じゃね?」みたいな無効審判をされたので、「あー、そうかも。でもタッチパネルはないよね? でもタッチパネルでも相対移動するやつみたいなのはあったから、最高速度が制限されるようなUIは僕らが初めてだよね?」 という感じで訂正した
  • コロプラに指摘するにあたって自社の特許に不備がないか確認してたところ「なんかこのままだと請求範囲が広すぎて無効審判されて負けるかもしれない。全部無効になっちゃうと最悪なので事前に確実なところに絞っとくか」という感じで訂正した


だからまあ任天堂は本気だし上記の記事のサイトのコメント欄は「無効理由を解消させるためのものじゃないか」って書いている一人以外は全員ボケボケな議論をしているように思える。


なお、この流れにより請求範囲が円領域に限定されることとなり、8方向デジタルスティック全盛期に育ってしまった僕がゲーム作ることになったらカドがとれた四角形のような形状にして対応しちゃうのであまり問題じゃなくなる。「物心ついた頃から3Dスティックがあったアナログ世代は大変かもしれないけど頑張ってね」という他人事っぽく思っている部分がなきにしもあらずです。