東京五輪というデスマーチ

2017年の春に母が関東に来ることがあり、そこで自分の仕事の状況などを話したりした。ちょうどそのとき神戸製鋼三菱マテリアルあたりで品質データの偽装が話題になっていたのだけど、僕は「ああいう偽装はいまの日本ならどこででも発生する可能性があって、珍しくないかもしれない」と話した。

「そもそもソフトウェアの世界では品質が不十分だとわかっていながら出荷してしまうことは日常的に発生している」

「自分たちの実力では不可能なことを求められていて、それが達成できないと赤字でリストラになってしまうようなとき、偽装して少し生き延びて、あとでバレてクビになるか、今すぐリストラかの2択のどっちを選ぶ? あと5年で定年とかそういうフェーズになってきたら前者を選ぶんじゃないか?」

「ましてや他社も偽装してるような雰囲気が感じ取れるような状況でそのずるいやつらと競争させられているときは…」

 

そして「特に大きなプロジェクトで完了時期が決まっていて簡単には遅らせることができないが、予算もリソースも限られている仕事はとても危険な状態になる。最近では東京オリンピックがやばい。あれは、すでに人が死んでるけど、最後にはもうあと何人も死ぬと思う」というようなことを話した。再度書いておくが2017年のことだ。

 

 

そう。東京オリンピックデスマーチプロジェクトなのだ。

 

デスマーチ - Wikipedia

ヨードンは、その著書『デスマーチ:なぜソフトウエア・プロジェクトは混乱するのか』で、デスマーチの定義を「プロジェクトのパラメータが正常値を50%以上超過したもの」もしくは「公正かつ客観的にプロジェクトのリスク分析(技術的要因の分析、人員の解析、法的分析、政治的要因の分析を含む)をした場合、失敗する確率が50 %を超えるもの」としており、具体的には以下のいずれかに該当するものと定めている。

  • 与えられた期間が、常識的な期間の半分以下である
  • エンジニアが通常必要な人数の半分以下である
  • 予算やその他のリソースが必要分に対して半分である
  • 機能や性能などの要求が倍以上である

 

「予算やその他のリソースが必要分に対して半分である」というところが一番ひっかかっているのではないかと思ったが、オリンピック組織委員会の予算を調べにいったところ、2016年末のV1予算から最新のV5予算で、「組織委員会及びその他の経費」の合計は16000億円→16440億円と大きく変化していなかった。

バージョン1(2016年12月発表時点)

組織委員会およびその他の経費

 

しかしながら個別の項目を見ると、「オペレーション」の項目については1000億円が1930億円と膨れており、当初の見積もりの甘さが目立っている。また、他の項目で当初見積もりから大幅に削減された項目がいくつもあるのだが、「合計の予算を当初のバージョン並みに抑える必要があるから削減プランを検討しろ」という号令がかかって削減した結果だったりするのではないかと疑心暗鬼になってしまう。

 

「与えられた期間が、常識的な期間の半分以下である」の項目も該当している可能性が高い。とにかく競技場その他のハードにしても、開催の具体的な在り方などについても正式な決定をするのが遅すぎると思う。オリパラアプリは73億円を新規のチームでソフトウェア開発を行うプロジェクトで、これの公示が昨年の12月だというのだから相当おかしい。

 

 

個人的には(もう遅いかもしれないが)「6月15日までに開催方針はっきりさせろや」とIOCに詰め寄って中止または無観客での開催を勝ち取ってとりあえず終わりにしてしまってほしい。再延期になるとこの地獄が1年余分に続くだけで余計な金がどんどん消費されてしまう気がする。