本音を言えるようにしようとか心理的安全性とか

現在問題になっているのは、本音を言ってバカにされるとか貶されるとか罰せられるとかそういう心理的な話ではなく、下記のようなものなのではないか。

・本音を言うことにより今日残業しなくちゃいけなくなるとかクッソ面倒な作業が増えるとかそういうのがイヤだからしゃべらない

・本音を言ったところで何がが解決されることが望めず上司の心労を増やすだけだから言わない

 

 

たとえばさ、あなたが何かのリモートワーク監視ソリューションのベンダだったとして、いま会社の屋台骨を支えている製品の根本的な設計の部分にプライバシーや法的に致命的な問題がある可能性に気づいた場合、それを口に出すことで何かよいことがあるだろうか。それを言ってまず最初にやらないといけなくなることは「その可能性が本当に起こりえるのかを調査しろ」というやつであり、それを自分の部署でやるにしても他の部署でやるにしても金がかかってしまう。

「それを口に出して、真面目に検討したら、確実に金がかかってしまう」類の言葉を口に出せるのは「必要なら金を使っていい」とされている組織だけなのである。僕らが居るのは、たとえば前期はコロナの影響で赤字になっていて「今期の赤字は何があっても回避しろ」って言われてて、予算が削られてRAM8GBのPCを使わされているとか、資料を印刷するときにカラー印刷は高いからモノクロで印刷しろって言われて月に数枚印刷するだけで呼び出されて理由を聞かれるような職場だ。チーム内で心理的安全性ってやつが確保されていて、追加で金を使うような提案をして、それはたしかにそうだねってだけで、何かアクションが起こせる気がしない。だから言わないのだ。Googleみたいに会社として些細な金の心配をしなくていいような会社のベストプラクティスを持ってきたいなら、まず金を潤沢につかえるようにしてからにしてくれ。

 

 

大抵の場合、本音が言えないのは、それを言ったらバカにされるとかそういう理由ではなく、それを言ったら解決策を求められて、その解決には予算と時間が必要で、それを確保できないからなんだ。

A「明日のリリースにはこういうバグがあるかもしれません。不安です」

B「それはみんな知ってるけどこのままリリースするしかないじゃん」

C「いや、たぶんダメだと思うんだけど…」

D「相当ヤバいんだな。じゃあいまから深夜残業して点検しよう」

このチームでは心理的安全性は確保されているけど物理的な安全性が確保されていない。このとき、C/Dはこの発言をせずBが言った結論のまま進むことが望まれているかもしれない。リソースが足りてないことが根本的な原因になっている組織に心理的安全性などが流行ることは、これまで以上に精神論を振りかざされることにつながりそうな恐怖がある。